十三+十三後日談 平野智志×椎名小夜子

【ルール】四十八時間の間、直前の首の単語或いは熟語を最低ひとつ踏みながら返歌する。

以下は制限時間制贈答短歌「十三+十三」について、後日 Skype で行われた制作秘話や感想、暴露等々の後日談である。
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平野智志: では参りますか。最初は平野の歌ですね。最初のご挨拶ということで、お気付きの通り、小夜の字を使わせて頂いたのですが、じつは折句にもなっていたのは、気付かれましたか? し、い、な、さ、よ

椎名小夜子: 気付きましたねー。一瞬今「折句」と聞いて「え、地名? 地名?」となっていましたが「しいなさよ」には気づきましたw

平野: あ、折句という用語を地名限定では平野は考えていませんでした。かきつばたは花ですし、人名を使うのも折句と呼べると思っています

椎名: ほむむ。和歌は正直語れるほど読み込んでいないのがバレますね…

平野: なに平野も素人まるだしです。敷島の道、とはつまり和歌のことですね

椎名: ほほう

平野: それで、なずみ、というのが生硬な気がしないでもありませんが、泥む、です。歌の道に泥みましょう。道だから、泥っとしているのは有りかと思って、あとは、夜に幽かに聞こえる鳥のさえずりのような調べが、もしかしたら聴けるかも、という意でした

椎名: 小夜千鳥に随分期待を戴いたようで…なんというか、ありがとうございます

平野: 次の歌は、その「道」を拾われましたね

椎名: そうですね。では私の歌ですが「道」と拾いつつ、こちらも折句のような何かで返歌させて戴きました

平野: ハッ

椎名: ひ、ら、の、さ、と

平野: 自分で仕掛けておいて、返して下さったのに全く気付きませんでした。恥かしい。うははははは

椎名: いえいえ、今ちょっとこちらも(ドヤァ)してますので大変美味しいです

平野: 平野は折句やるのに結構、時間かかったんですよ。初回だからたっぷり時間使えると思って。開始してからの折句とは脱帽です

椎名: あらら、そうなんですね。でも歌始めの切り出しのむずかしさはあると思いました。あとは、個人的に「花は枯れて散るまでが花として全う」という謎の主義を滲ませています

平野: この歌で気になったのは、柊や蘭は「散る」ものではないよな、ということでした。散ります?

椎名: 「くちる」にしたかったんですけど、「く」を削ったんですよー。字数の関係で…

平野: 咲きては朽ちる、とかすると揃いますね

椎名: あー、そこまで考えなかったです。単に「散る」を使いたかっただけのような気もしてきました

平野: その上で、ひ、ら、の、さ、と、縛りですからね。折句の妙味です

椎名: ですねぇ。粋な遊びです。それから「野」をお拾いになられたんですよね、次は

平野: よし、野だ。そう思って「野分」が出たのです。野を分けると割って使うのはどうかとも思いましたが、許される範囲だろうと。あとですねこれは、送信してから、おや、ひょっとしてこいつは、上手いこと詠めたんじゃないかと密かに嬉しがっていたのです。と申しますのは、野分は冬の風でしょう。で、現実という厳しい冬風はさっさと吹き去って行く。それに比べると自分の足取りは随分遅い。遅いけれども、俺は行くぜといった所ですが、冬が過ぎると、春です。はるか、でちょうど掛詞になったぜ、と思ったのです。歩みは遅くとも行けば春がある

椎名: …あー、私、野分は「晩秋の風」って覚えてました。野を分ける程度の威力の台風、って

平野: ほんとうだ…。台風のことですな。ザ、素人まるだしズム。秋から春では随分遠いが、冬もぼちぼち歩いて行きますわ、ということでご勘弁願いましょう

椎名: 私はなんというか「秋:朽ちていく季節」→「晩秋:野分」という流れだと勝手に思ってしまったので、その次で「風雪」と、思いっきり冬にしてしまいましたw

平野: 本当の冬が、次にやって来ましたね。かつ田舎を離れて都会に

椎名: 完全に農家のあれですね!

平野: のうかのあれ?

椎名: 農家のあれとは、出稼ぎの事です。基本的に冬場にやる事が殆どないので…主に雪国だと。祖父母がよく一時的に東京やら神奈川やらに行ってましたよ

平野: そういう事ですか。風雪に縛られるから都会に出るというのですね

椎名: ですです

平野: 平野は、都会はすぐ雪で駄目になるという意味合いで読んでいました。ちょうど大雪騒動で、タイムリーでしたし

椎名: なるほどー、そっちの解釈もありだと思います

平野: そして、四句目にして早速の破調、字足らずです

椎名: どっちにしろ東京は迷子! 人生まで迷子! って感じを言い切りたかったですw

平野: 東京歩けども、迷子、ですよね。下の句の後半がたった三字という思い切った字足らずです。まいごっ

椎名: まいごっ!

平野: まいご…

椎名: まいごって響きが可愛いですよね…

平野: ええ可愛い。子供は、ごーいんぐまいうぇいだから、まいごになるんです。あんまり音が似てもいないことを云ってしまった。それから平野が「雪」を受けました。せっかくだから、枕詞を使いたくって

椎名: おお、枕詞

平野: 詠み出した動機はただそれだけだったのです。だから、白妙の、雪、まで決めてしまって、さあてどうしよう

椎名: 「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香久山」…でしか覚えてないです、自分は…

平野: 「田子の浦にうちい出てみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」も、ありますな

椎名: ほうほう

平野: 椎名さんが挙げて下さった歌も同じですが、白妙の、って、雄大な感じになるんですよね

椎名: ですね

平野: それを鄙の家とは、ちと似つかわしくない。でも、豪雪地帯で、背景にどっしりと山が見えていればいいかなと気軽にやっつけてしまって、そこから、家の中にぐっとカメラを寄せたのです

椎名: ほうほう。雪国育ちの私相手だと綺麗なダブルパンチですね。北国は稀に室温が 28 度になる事もあるので、家庭じゃなくて夫婦二人というのが、心許ないようなじんわりするような印象でした

平野: 老夫婦と見るか若夫婦と見るかで、また漂うものが違って来ますね

椎名: そうですね。私は自然に老夫婦と考えてしまった上に、若い夫婦がイメージできないです…「鄙びた」が強いかな、って

平野: 世に求むなく、を強めに読むと、若いのに田舎に逼塞している、しかし夫婦仲はたいへんよろしい、ということになるかも知れません。平野としては、そう判然と決めてはいませんでしたが、どちらかと云えば若いほうを思っていました。豪雪地帯での雪下ろしお手伝いツアーというのに、平野は参加したことがありますよ。愉しかった。そう云っては現地の苦労も知らぬよそ者都会人の呑気さに過ぎませんが、ともかく面白かった。屋根に二メートルも積もったのを、スノーダンプという道具で、むくりむくりと攻撃します

椎名: ありますね…雪を下さないと家が潰れるが、雪を下そうとすると滑るという…。北では餅と並んでシャレにならない行為であると恐々存じています

平野: 下ろした雪に、屋根からひゃっほい。跳び下りてやりました

椎名: むっちゃおもしろいんですよね! 超わかります! だが決してひとりではやるな、と(真顔)

平野: その注意は確かにされました。春が来るまで発見されませんからね

椎名: ですです。あなおそろしや

平野: 怖ろしくないのは、六花でした。あな美しや

椎名: 雪、冬の流れからそのまま引き継ぎました。六花は結構好きな単語です。先日の大豪雪で関東人も経験した方が多いんだろうなぁって思うんですが、氷点下だと雪が乾いてるんですよね。ぱさぱさに

平野: 氷点下、という俗語の使い方も、この場合うまく嵌っていると思います

椎名: だから雪国の私は、氷点下の六花が舞い散ってこそ冬だと思う、とそのまんま述べただけです。特にあとはないかな

平野: ただし椎名さんは、右の手でもって恋を呼んでらっしゃいます。こたつやストーブを求めても良いですがやはり恋でしょう。そこで、露骨なる恋を

椎名: あはは、今はまだ笑えるんですが、後日この会話が喉元に突き刺さる日があるような気もしていて笑えるのかどうか

平野: おや、何か重大なる物想いがおありですか? そこ追求していいですか?

椎名: ええ追求するんですか。語ることもないですよ。人畜無害な逸般人[※注1※]ですから

平野: では追求しません。露骨な恋を出したのが、平野の次の歌でした。手の一つ半、が我ながらちょっと気に入りました

椎名: これ、私も気になったんですよ、実は。最近思ったんですけど、男性の手というものは思いのほか大きい。大して身長変わらないと思ってた兄らが、今でもずんずんでかくなりやがって、背丈を見ていると手の大きさも抜かれているんだろうなぁと感じます。露骨な恋だと、歌っている通り手を重ねる事もあるんだろうなあと

平野: 椎名さんは、男の手が一つだとすると、女の子の手はちんまりと半分ほどだ、というのですね

椎名: さすがに極端ですけどね。一つ半だと、男性の手が女性の 1.5 倍って感じですね。半分とは流石に子供の手の気がします

平野: 平野の意図したところは、手つなぎたい手つなぎたいと男のほうが思っていて、想像のうちでは既につないでいるのだが、なかなか実行には移せてない。出したり引っ込めたりしておる。実際に重ねれば手が二つになるのだけれど、まだそこまで行けてない。その辺りのもどかしさを、一つ半としてみました

椎名: なるほど。この「一つ半」は、男性側の空想に於けるサイズという事ですか。ほへえ…

平野: サイズと申しますより、想像と現実の混淆という所でしょうか。椎名さんはやはり女性の気持ちで読まれたのでしたか

椎名: 私は FTX[※注2※]なものですから、女性側の気持ちともとれなくて、なんとなく多分常識っぽく無難に読んでおこうと思ってました…まぁ別に大して気にしてないので大丈夫です

平野: さてこれでも随分と恋なのですが、さらに露骨なことになります。血がどくどく。心臓が打ち出した

椎名: 別に杭が刺されたわけでもなくw あ、これ、公開の時に修正しておこうと思ってるんですけど。三句目の「思ふ」を「想ふ」にしないと踏んでないんですよw 印刷してから誤字に気づいて…あ、でも「君」も踏んでました

平野: 「我」も、踏んでいると云えば云える、だが云えない、惜しい所なんですよね。「吾」だから

椎名: ですねえ。個人的に後ろの方の思ふは「想ふ」にしたい、かなぁって感じでいます

平野: そうですね、前のはコギトと重ねて、後のは恋と。左心房にはぐっと来ましたよ平野は。こういう物を出されてしまっては、つい、むらむらします。それで、とうとう…

椎名: 止めちゃいましたね。後半の漢字が綺麗に並んでる部分は美しいなーっと

平野: これはもう、いわゆる一つの、深夜のハイテンションです。人が死ぬのは、その親しい人にとってはいつでも人類史上最大悲劇だろう、ということを云ったまでのことでした

椎名: じんるい・しじょう/さいだい・ひげき、って、何気に真ん中で韻踏んでるのがとても小粋で好きです

平野: ああ、そこは意識したものではありませんでした、椎名さんやりますな。絶対運命黙示録

椎名: ww

平野: さてここで、睡眠が挟まったのでしたね。インタールード

椎名: 死んじゃったもので、次に思うのは静けさだろうというノリで

平野: 睡眠したというのは、いっぺん死んだようなものですしね

椎名: ですねえ。「我十有五にて」学を志さずに寂しくなってしまいました。始発すら動いていない明け方の白々しさは本当に憎々しいと思っております

平野: それ、平野は結構好きなほうですね。徹夜して茫漠とした頭に、冷気が、ここちよい

椎名: わかる気がします。憎々しいけど、嫌いじゃないんですよね

平野: 高校の頃、テスト勉強していたらいつの間にか、朝五時くらいになったことがあります。無根拠な爽快感がありました

椎名: 私はよく眠れずに外を眺めて夜明けを見ます。空の色って紫とかピンクとか、なんでもありだなぁと考えてます。何食わぬ、いや、何降らさぬ顔で微々刻々変化しやがって、憎たらしいけど、そこまで嫌いじゃないです

平野: 好きでも嫌いでも朝は過ぎて、昼になります。その日、とっても良い天気でして。いい青空でした。青いなあ。そしたら、ねぎが平野の脳髄をよぎりました。後は想像のみの情景です

椎名: なんというか、私の中で平野さんは、某ボーカロイドの如くネギが好きな印象が日に日に定着していっています

平野: あれ、そんなに平野はねぎねぎしています?

椎名: ネギボウズが強烈でしたね…

平野: あっそうか[※注3※]、確かに。いや、だって、ねぎ坊主ですよ。面白いでしょう

椎名: トウモコロシの毛と同じくらいおもしろいとは私も思います

平野: たまたまその頃、全くの偶然ですが、シラーの『群盗』を読んだのです。そしたら、ねぎ坊主が出て来たから驚愕しました。主人公の男が盗賊団をやっていて、そこに、仲間に加えてくれ、と新入りが来るのです。それに対して主人公は、「盗賊団になろうなんてえのはそう生易しい事じゃねえぞ。ねぎ坊主の頭を落とすのとは違ってな」。記憶に頼るのでだいぶ間違っているかも知れませんが、何でもそんな台詞があるのです

椎名: 確かに、小学生男子がネギボウズとからかわれる事は、ままありますねえ。意外とすぐそこまで、ネギボウズは這い寄っているのかもしれません

平野: 這い寄れ!

椎名: にゃー!

平野: 煮干しは要るかー!

椎名: にゃー!!…と、ネギボウズじゃなくて這い寄ったのは猫でした。いやぁ、猫ってすごいですね。今日も我が上司たるボス[※注4※]はあちこちと出歩いていたようです

平野: ボスとの交際は順調ですか

椎名: おかげさまで、ついに煮干しを求めて窓の隙間から手をつっこんでくるようになりました

平野: それはめでたい。この歌が詠まれたのは何日前くらいですか。この当時はまだ…

椎名: まだ洗濯機の上から昼寝をしている私を睨んでいた頃だったかと思います。煮干しはまだか、と。ボスのおかげで、非常に悩まされていた鼠被害が一掃されました。まだ室内には入っていないんですが

平野: 福猫ですな。そうそう、この歌で庭が狭いというのを、猫の額と掛かってますねと申し上げたら、あらっと

椎名: 意外と言われるまで気付かなかったです、狭いが掛かっていたのは

平野: 三十一文字、短くて情報密度が高いぶん、こんなこともあるのでした。その「狭い」を使ったのが平野で、平野は仕事から帰って参りましたよ、という報告もちょっぴり兼ねるようなつもりで、こんなことになりました。もう夕方です、いや夜です。でも次の歌との関係では、夕方と見たほうが良いか

椎名: 次の歌、とはユングであってます?

平野: はい。煮干し、開けつ閉てつ、ユング、です

椎名: 私は特に時間を考えてなかったんですが、時間帯の如何を伺いたいです

平野: なに今そう思ったことで大した事じゃないのです。開いた戸から射す光、となると、夕方の切ない暮れの光が最も情緒あるかなあ、と云うのです

椎名: ふむ…。んーとですね。平野さんは、暗い部屋の中で開け放たれたドアから光が差し込んでいる風景を見たとしたら、どう感じます?

平野: ああ、居る部屋が暗いのですね。そうですね、さっさとそのドアを閉じやがれ、と思うかも知れません

椎名: 実はあの短歌、ユングだかの心理テストからもじってきたんですよ

平野: おっ。面白い展開に

椎名: なんか「戸」が被ってたからおもしろいかなーって

平野: 答え、教えて教えて。…下さいまし

椎名: えっと、「閉じろ」とか「ドアの向こうが怖い」とか思う人は、内向的・個人的な傾向が強いと。「出たい」とか「希望だ」とか思う人は外交的・社交的な傾向が強いらしいです

平野: 面白いですな。平野は内向的だと思いますよ。尤も、自分でそんなこと吹聴するのは却って厭味ですが。壁の反対側の窓から逃げ出す、というのはどうでしょう

椎名: あー、なんか厳密には真っ暗な部屋に一人、開かれたドアがひとつ、さしこむ光でその向こうは見えない、とか微妙にルールがあったんですよ。詠んだ時には感想戦をやる事は頭になかったので、自分だけわかればいっかな★とか思ってました

平野: いえ冗談で申したのです。ぱりーんと窓を破って跳び出すのです。あんまり内向的なもので外に出てしまうタイプ

椎名: ほほう、ならば私はすみっこで毛布に包まり二度寝に入るでしょう。典型的お布団属性です

平野: マシンガンで床をまあるく撃ち抜いて床ごと一階に着地する、という手もあります

椎名: そしたら神がおりていらしたですね

平野: 次の歌はこれはもう、遊びです。出来上がったときは一人で嬉しがっていました。「み」が 12 個

椎名: いっぱいありましたねー。逆に今「遊び」と聞いてちょっと安心するくらい、深読みが難しかったw

平野: 神々が罪を犯したために、人間界には揉め事が増えましたが。しかしそれなくして、今の世界は今のようには存在しなかった。世界は嘉するに足るものだと平野は思います

椎名: …き、規模がすごいですね…。「ギリシャ神話を読んだ感想」と伺っていましたが、なんともまぁ壮大ですね

平野: 人類の歴史には、考古学的に始まる歴史と、神話から始まる歴史とがありますね。どちらかの片方だけでは歴史の総体は成り立たない、ということは云えるように思われます。あっギリシャ神話云々と申したのも、白状しますが、後付けですぜ。ひたすら遊びだったのです

椎名: ですよねw

平野: それから、神の子が遣わされました。神代から時は流れて二十一世紀、新宿で騒がしいものが聞こえます

椎名: 新宿西口で先日たまたま見た宣伝カーですね。あの後にちょっと調べたら、思ったより真面目な団体のような話を見かけて驚いたものです

平野: そうですか。尤も、或る意味では大真面目ではあるのでしょう。よく知りもしないくせに云う資格はありませんが、しかし、どうも…

椎名: まぁ、なんとも言い難い感は否めませんね。そして透ける人々は手紙を出す、と

平野: この手の話題に及ぼうとすると、なぜ、腰が引ける気がするんでしょうね。しませんか。平野はする。宗教を莫迦にする気は毛頭ないのですけれど。そうそうこの間、目白台にある聖マリア大聖堂にふらっと入ってみたことがあります。モダアンな建築で、丹下健三が設計したというやつです。目白台という所を、ふと歩いてみたくなったのです。いかにも高級そうな東京の一画、ということで

椎名: なんかおもしろかったです?

平野: 田中角栄の邸宅跡の今は公園になったのがあったり、山縣有朋の椿山荘跡が今はホテルになったのがあったり。聖マリア大聖堂は、面白かったですよ。面白いと申してはちと違うか。ほとんど誰もいない、天井高あい大聖堂に、独り座って、目を閉じてみました。五分間ほどそうしていました。特に信心するでもないのに

椎名: ほむ

平野: ここちよい

椎名: 想像出来なくもないけど、何処か違うような既視感がもどかしい

平野: 平野は、ドアをさっさと閉じやがれという内向的な性質なのです

椎名: そこにふわりと手紙が

平野: この歌は、ええと正直、特に何も考えていませんでした。その手紙がいかなる手紙かという辺りで想像が拡がる、くらいのことで

椎名: 確かこの歌の前後は私が、寝こけていた気がします。だから「文はまだか」ってのだろうか、ともw

平野: あ、そうか。椎名さんの返歌がなかなか来なくて、というのが無意識の内にあったのかも。それと、これも判然とではないのですが、どちらかと云えば、恋文を思っていました

椎名: あ、なるほど。だから次の歌の解説をーって話だったんですね

平野: こちらが、ほんのりとながら恋の気持ちでいる所へ、少年少女とお出でなすったから、これは青春の恋だろうと…。 それが、少年少女と云って既に逢っている、なのに、待ち人来らず、とは? それで首を捻ったのでした

椎名: 文というと、書簡等々色々見ているはずなんですが、やっぱり電報、戦前戦後辺りのですか、「ハハキトク、スグカエレ」みたいなのを思っちゃう謎の刷り込みがあります

平野: ふみと読まずブンと読む感触ですか。デンブン、ホウドウブン

椎名: いやいやw ふみはふみでいいんですけど、不思議ですねえ…。なんとなく、幼い兄妹がかくれんぼをするとシーツや布団の中に隠れてないしょ話をするんじゃないかなーという、激しい経験則をそのまんま詠んだんですよね。少年少女の幅の広さを考えさせられます

平野: そう、確かに仰る通り、少年少女という語感から来る年頃の想定が、肝心要の所ですね。平野は、まだ高校生くらいのくせして怪しからんことを、という風に捉えた

椎名: 「しーつ」と「しーっ」と捉えなさったのは目から鱗でした

平野: 敢えてひらがな表記なすったことだし、これは掛けたに違いないぞと勘繰ったのです。怪しからんのは平野のほうでして、刺激的な単語を一つ放り込んでお返ししてみました

椎名: 乳房ってもろにきたなぁと思って読みました

平野: じつはこれ、まんま、西東三鬼の句なのです。意味もほとんどズレてない。「怖るべき君等の乳房夏来る 三鬼」。歌ではないから本歌取りではない、かと云って本句取りなんて言葉もない。しかし大体、そういったことを称するほどの創意は入っていない、と云ってしまえますねこれは。朝、とやったのだけが唯一の追加で、いかにも健康的な少女の趣を表象したものです

椎名: 中山可穂の小説のようです。夏が来るんだから夜よりは朝の光の方が、白と肌のコントラストが綺麗だと思いました。少女ら、だから、普通に同性愛の歌なのかなって

平野: そうか、そう読めなくもないか。今度はこちらの目の鱗がすぽんと飛びました。少女たちがキャハハあははと、さんざめきながら歩いている様子のつもりでした

椎名: パジャマパーティーのような感じですか

平野: 左様。さて、案外長くなるものですね。むろん面白いこと限りないのですが。後は今度に廻しましょうか

椎名: その方が楽しそうですしね。明日もありますし、一度お開きにしませう

平野: では、感想戦も一旦、インタールード…

— 間 —

平野: それでは再びお願いします。乳房から、ですね

椎名: ええと、私がレズビアンか? と読んだあたりですねー

平野: ぱじゃま、ぱあてぃと椎名さん仰いましたな。少女がキャハハと云えばやはりパジャマですか

椎名: どうなんでしょう…自分はパジャマを着ない人間なのであれですが、洋画とかではパジャマとナーサリー・ライムとマシュマロが定番の気がします。偏見です

平野: これも例の、少女という語感から受け取る年齢問題がちょっと響いていますね。前の単語を踏む、というルールがもし無ければ、「乙女らの」としたいではありました。いや、でも乳房だから充分かしらん

椎名: 年齢問題はそうですねー。でもこの歌では乳房というだけでそれなりにふくよかな気がしますね。恐らく小学校は卒業し二次性徴が表れだして以降の印象がします

平野: そうです。たゆんたゆんです

椎名: マシュマロ系女子

平野: 何だか柔らかくてよく判らないもの

椎名: ほう

平野: いえ何でもありません

椎名: ほうほう。そしてその何だか柔らかくてよく判らないものが、雨になりますね

平野: そうこちらは、水晶のように硬質です。そんな感想を申し上げましたね平野は。洗練、燦々、雨と並んで、きらりと光る趣です

椎名: ありがとうございます。実はこれ、前の乳房をめちゃくちゃ踏んでるんですよ

平野: ほうほう(フクロウの真似)(椎名さんの真似)

椎名: 気付く人はまずいないだろうなーっていう自己満足が入っているというかw 中山可穂さんという同性愛をテーマにした小説が多い作家さんの作品に、「燦雨」という短編がありまして。椎名はそれが好きなのでございます

平野: 平野が椎名さんと初めてお逢いしたとき、ちょうどまさしく中山可穂を熱く語ってらっしゃる折だったのでした。憶えています

椎名: そうですねえ

平野: 平野の本棚にも、二冊ほど、ありますね

椎名: おお。私の棚にはありません…布団周りとかに散らかっているのでしょう

平野: 『深爪』と、『サグラダ・ファミリア』と

椎名: 個人的には『白い薔薇の淵まで』を推したいのですが、「燦雨」は『花伽藍』(新潮文庫)の一番最後の話です。すっげえざっくりと説明すると、女の子同士の恋愛の末に、よぼよぼなおばあちゃんになっても二人暮らしを続けている二人のお話です。時々若かりし頃の回想が入っているのです

平野: 鉛筆マークが六回くらい倒れました[※注5※]。椎名さんがあたふたしておる

椎名: 言葉を探してましたw でもまぁ上記の通りです。椎名によるステマが反映された歌でございました

平野: 洗練というのも、小説を元に出て来た語なのですか

椎名: あ、それはどうだろう。小説は勿論イメージしたんですけど、単語自体の語感も強くて。人間の網膜も日焼けして、加齢と共に見える景色が違うっていうのはぼんやり考えてました

平野: 遠ざかる日、だから回想だとはすぐ判りますが、するとかなり、遥かなる昔を追憶するような調子を込められたのですね

椎名: そうなるんだろうなぁ…詠んでいる本人の方が気付いていなかったという

平野: 夏、燦々、雨というみずみずしさが現在の老いと対比されるとすれば、詩情はいっそう深まりますね。それを、詩情もヘチマも何もかもぶっ飛ばしたのが、平野の返しです

椎名: 早く寝ちまえ、にはつい笑いましたw

平野: 実際これやったとき、本当にこれでお互い寝ちまいましたもんね

椎名: そうですね、寝ました。私は翌日もかなり寝てましたしw

平野: 早く寝ちまえに関しては、じつは何でも良かったのです。風呂でも這入れ、とか、お茶でもあがれ、とか、カルシウム不足、とか。でもちょうど眠かったのがやはり、無意識下に蟠っていたのかも知れません。ついでに申すと、格率には「マクシム」とルビ振りたい気もちょっとあります。密かに、平野が今回の連作で唯一、カタカナ言葉を使った所なのです

椎名: おお、なるほど

平野: でもそれは隠れて見えない。却って見えないほうが粋かしらん

椎名: (平野さんの歌を見返し中) おおー、確かになかったです! 他に!

平野: ないでしょう。でも元来、平野は全体に渡って古風で行きましたから、それも当然の帰結か。やまと言葉が、やはり歌には相応しいと思う保守主義者です

椎名: その大和言葉の後ろに、あからさまな対句を持ってきたのが私ですね

平野: 漢籍ですからね

椎名: 漢籍ですねー。拾ったのが『論』だったので『論語』の引用とかでもよかったんですが、それよりもとにかく対句にしたかった。眠る直前でした

平野: 下の句前半、音の調子からして「ガヲシルロンゾ」と読んでいいですか? それとも敢えて「ワレヲシルロンゾ」ですか

椎名: 「ワレ」ですね。これも破調してますさせてます

平野: そして勿論、もっと気になるのはその次で、ええと。すなわちメイ? すなわちアキラカ?

椎名: 「メイ」です。「人を知るは智なり。我を知るは明なり」が『老子』にあったなぁ、と

平野: でもそこで「なり」は付けないのですね

椎名: ですです。「メイ!」って言い切っちゃった方が、「知る論ぞ」って強調の助詞が生きるんじゃないかなーとかとか

平野: そうも《からごころ》でお出でになるならば、平野は《やまとごころ》で対抗します。むらむらと

椎名: むらむらには見事にしてやられましたー。おもしろいです

平野: じつは、むらきもと清音で使うことは少ないですね。普通、むらぎもと濁ります。中野重治に『むらぎも』という題の小説がありますね

椎名: 濁った方だったらわかった気がします。しかし清音で来ましたね。その心は?

平野: 最初、むらぎもと書いたのです。でもこの歌全体、他に濁音が一つも無いなと心附きまして、取っちゃいました。ほんの出来心です赦して下さい

椎名: そういう理由もありっちゃありだと思います。ものをひとつ覚えられました

平野: 天叢雲剣とか云うときの叢に、肝。叢肝、となかなか重たい単語なのですがこう、ひらがなにすると枕詞としてすっきり綺麗になるのもめでたいと思います。僧でしょう。僧思いませんか

椎名: 僧ですねー。一瞬助詞の「の」が主格だったかどうかを確認している間に話題が僧へと続いてしまっていましたが、僧いふ事もありますよね

平野: 僧の相貌が…

椎名: これもまた対句をつっこみました。こっちは出典はないです。「むらきもの」を「着物」ととってしまったが故の事故です

平野: 僧僧、紫の着物かしらん、と仰って。出来心です赦して下さい。さて、対句? 相貌と眼光とが、ということですか。確かにどちらも、この歌の中では音読み言葉で非常に目立ちますが

椎名: あまり綺麗な対句は作れなかったんですが、相貌-皺-深し:眼光-情-見ゆる

平野: 相貌皺深刻、眼光情横溢。下手くそに漢詩化してみると大体こんな感じなのですね。皺、って何て音読みするんだろう

椎名: しゅ…?

平野: ひ?

椎名: あ、スウでした

平野: へええ。趨とか雛とかと同じ部分を読むわけですね

椎名: 形声文字かな

平野: さて平野はなおも、やまとごころで受けます。僧残しで。そして、これは完全に、駄洒落でした。僧が、いと、け、なし。全く、それだけ云いたいがために三十一文字を蕩尽したのです。この無駄な贅沢よ

椎名: 洒落と教えて戴いたので「いと毛なし」はわかったんですが。「子らと遊ぶも」の後だったからすごい戸惑った感がまだあります、実は。「も」が係助詞なのか接続助詞かで考えちゃって

平野: むろん、ちゃんとダブルミーニングになるように嵌め込んだのです。駄洒落も、どうせ云うなら然るべき云い方をしなければなりますまい、僧でしょう。さて、最後の歌です

椎名: 最期は好きなものを好きな様に、稚き頃の記憶を率直に述べただけだったりです

平野: 雪も、塩(波の花)も、白々として、淡泊な幕切れとなりました

椎名: 淡泊と言っていただけると、ちょっとしてやったりーと思います。若干皮肉ってます

平野: おや、皮肉ですか? それはまたどの辺りが

椎名: 幼少の記憶だと確かに雪も波の花も白くて儚いきれいなものなんですけど、それなりに大人になると空気中水中の汚れ等が沢山交っていて実際は結構黒くて汚いものだっていう事を知ってしまうので、哀しいなーという意味を込めて「や」で詠嘆させて戴きました

平野: 雪にはごみが混じり、波の花は工業的に生成した塩化ナトリウムで、と

椎名: それ以外にも海は油とかありますしね。白々しい歌です

平野: あっ白々しい皮肉というのは、うまくまとまりましたね

椎名: 「ゲームはルールがあるからこそ」という文句もあり、これ以上は敢えて「手を伸ば」さないで結んでみました

平野: かくして、併せて二十六の歌で以て、今回の愉しい座はお開きとなりました。やあこの対話も、歌に負けず劣らず面白かったですね

椎名: はい、非常に楽しい二日でした。歌と合わせてそれぞれ二日がかりでしたね。色々ものを覚えました

平野: 平野も例の、野分の一大羞恥事件がありましたし。これでもう一生忘れないわけです

椎名: ww

平野: 恥は公開してこそ恥として残り、平野の痛恨の記録となるのです

椎名: 椎名側としては、折句を始めとする和歌の色々および古語を振り返る良い機会でした。半分以上すっぽ抜けてたのがわかりました。(結構辞書引いていた人)

平野: 平野も辞書は引きました。こういう機会を利して、愉しみ覚える

椎名: 辞書を引く事は楽しいです。楽しみながら覚えるとは、暇人による至極優雅な遊びだと感じています

——————————–

【本文注釈】

[※注1※]

椎名小夜子のキャッチフレーズ。

[※注2※]
肉体女性、精神中性の両性愛者のこと。

[※注3※]
平野智志は、ねぎぼうず小説を公開したことがある。

[※注4※]
自宅へ現れる猫に椎名小夜子はボスと名付け、上司と部下の関係で服従している。

[※注5※]
Skype で、テキスト入力を途中で止めて数秒間おくと、相手方では鉛筆マークがぱたりと倒れるのが観察される。

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