そんな僕は幸せになっても良いですか

男に犯される夢を見た。

起きた時には吐き気がした。
偉人が言う事はあてにならないと、一人悟った瞬間だった。
かのフロイトだかユングだか、今更倫理をきちんと受けておけばよかったと思った所で仕方が無いのだが、その人は言ったらしい。
夢には現実で見た事の無いものは現れない。と。
これもまた誰かの話だったか、こっちは確かフロイトさんだ。
夢は無意識の願望のを象徴である。
俺は明け方の天井を見上げた。
乾いた笑いに投げ出した四肢が布団の中で汗ばんだ。頬っぺたが引き攣るのがわかる。
やがてカーテンの隙間から徐々に光が差し込んで目覚まし時計がけたたましく鳴り始める。
それは忌ま忌ましい程、透き通る青空をもった朝だった。

「あぁ? 母さんは」
「もう知代子を保育園に連れてった」

台所に行くと姉貴が一人テーブルについていた。
並んでいるのは朝食では無くくすんだ色の化粧品の類。百均の鏡に鼻が擦れる程顔を近付けて、俺に見向きもしないで答える。

「飯は」

今度は返事すらも返ってはこなかった。
冷蔵庫を開く。中にはバターやらマーガリンやら焼肉のたれだの到底朝食にならないものばかりで俺は眉を潜める。まだ育ち盛りだというのに。

「秀二、あのさぁ。今冷蔵庫空っぽだから」

そんな事とっくに知っているとばかりに些か乱暴に冷蔵庫を閉める。
バタンと音がして、姉貴はやっと顔を上げた。片方にだけついたマスカラ。左右で全く違うその間抜けッ面に込み上げる笑いを抑え切れない。

「……何笑ってんのよ」
「いや、別に?」
「とにかく今食べるもの無いから」
「朝飯抜けっつーの?」
「母さん、これ食べといてって」

さらりと流す様な姉貴の視線。その先にある黄色い物体。

「エネルギーあるし栄養価も高いし、育ち盛りには一番」

俺はバナナを一本手に取り、皮ごと真っ二つに折ってから小さくちぎって噛み砕いた。

 

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