なんでも屋さんのお仕事。

ぐちゃ……と潰れて形を無くし、ボタボタとコンクリートの床を汚す赤。いい加減慣れたはずの生臭い腐敗臭に秀二はあからさまに眉を寄せた。

「……つーか、ボサッとしてる暇あんなら手伝えよ」

両手の軍手を真っ赤に染めて、水城は振り返り蔑むような視線を送る。ハイハイと短い空返事を返して、秀二もまた同じ作業に戻った。
木造鉄筋一階建ての大分年期の入った倉庫は本来収穫した作物の類を保管する為のものらしく、見慣れない大型の機械が敷地の四分の一を占め、低い唸り声を上げている。実質二階建て分はあるであろう天井は高く、簡易なロフトスペースを備えた吹き抜けになっていて小さな天窓が一つ、仄暗い倉庫に微かな光を取り込んでいた。

「なぁ、こんな事やらせてどーゆーつもりなんだろうな。あのじーさん」
「単に自分で処分すんのが面倒なだけだろ。結構年も年みてぇだし」
「そうじゃなくって。何でこんな事させるんだろうな、そのまま穴掘って埋めりゃあいいだけの話だろ?」
「クライアントの事情に、一々深入りすんじゃねぇよ」

憮然とした水城の態度は普段と相変わらず、秀二は肩を竦めて一言、

「昴くん、こわーいっ」

と、裏返った声で揶揄した。

びちゃびちゃと赤い液体は床を汚し、コンクリートに染みを作る。水城はそれらを一瞥して短く舌打ちして悪態吐いた。今日何度目になるか知れない。

「ゴミ袋、マジで自分で持ってくりゃあよかった。黒の」

木造家屋独特のしけった臭いと混ざって、少しでも気を抜けば鳴咽が漏れる。

「この地区の、半透明だしな。しかも何コレ、萎びた黄色?」

秀二が苦笑と共に返す台詞も、水城が愚痴る度に終始殆ど変化がない。それから二人揃って視線を送るのが、クライアントの老人が事前に用意してくれた黄土色を多少なりとも明るくした、この地区指定の燃えるゴミ用ビニールである。
それに詰められた赤い遺物は、薄暗い室内と濁った空気と、微かに注ぐ明るい光を反射して、より一層グロテスクに見えた。部分部分の液体が、光関係か、目には緑にさえも映る。
腐敗し黴が生えた部分と赤い液体が詰まった袋は別々に、各二袋ずつ並べておいてあった。
黴が生えた袋の脇にはそれを割り、細かくする為に使った出刃包丁がそのまま置いてある。

「昴、あれ…包丁でこっちもミンチにしちまえば早いんじゃねえ?」
「いい、やめとく」
「なんで。朝からやって、もう昼過ぎるぜ?」
「いいんだっつーの」

呆れる秀二に水城が返すのは逆に溜息。天窓から注ぐ光は太陽が南中し、かなり少なくなっていた。真昼の闇が、一層辺りを包む。
怪訝な顔をする秀二には目もくれず、ぽつりと水城は呟いた。

「……だって潰してくのおもしれぇじゃん」

ぐちゃりと潰れる音。白い軍手は手の平から、指の透き間から赤へ、そしてくすんだ褐色へと変わっていく。無惨な残骸はボタボタと地球の理に従って、真下に用意されたあのビニール袋の中へと落ちていく。ぴちゃん、と音がした。所々に白とも黄色とも似つかない細かい粒や黴が表面に浮く。
そんな作業も佳境を迎えた頃、突然、がらがらがらと倉庫の扉が開かれた。
差し込む光は先の比ではなく、二人は共に眉を潜める。
逆光ではっきりと見えないが確かにそこに佇む人影。

「……やあやあ、大分片付いたねぇ」

その口発せられたその声は、明瞭に、そして穏やかに倉庫に響いた。そして、二人にそれがクライアントの老人である事を悟らせる。澄んだ外気が篭った悪臭を一蹴して全てさらっていく。

「ちァーっす!」

秀二は元気良く頭を下げたが、水城は小さく会釈しただけ。老人はそんな対照的な二人に楽しそうな柔らかい視線を送った。

「まさか二人だけで、半日で片付けちゃうなんてねぇ。いやぁ若いってのは」
「ハハハッ、これくらい楽勝っスよ」
「……まぁ、結構楽しかったですし。こっちも」

老人はゆっくりと二人に歩み寄り、懐のポケットから少し角が皺になった茶封筒を取り出す。
二人も老人側へ歩を進めながら、汚れた軍手を脱いだ。

「ありがとう、なんでも屋さん。少ないけど、これ、約束の。本当に何でもしてくれるもんだから、こっちも驚いた」
「だって俺達、なんでも屋だし」
「廃棄トマトの処分くらい朝飯前っスよ!」

「それじゃ、今後とも是非ご贔屓に」

 

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